退職者によるノウハウ・情報流出の実態|営業秘密漏えいの最多ルートは「中途退職者」

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2026/11/01

「あの人が辞めたら、うちのノウハウも一緒に持っていかれるのではないか」。キーパーソンの退職に直面した経営者であれば、一度は感じたことのある不安ではないでしょうか。

社員が退職するとき、その人の頭の中にある業務ノウハウも一緒に会社を出ていきます。さらに深刻なのは、顧客リストや単価表、開発資料といった「情報」そのものが持ち出されるケースです。

情報流出というと、外部からのサイバー攻撃を思い浮かべがちです。しかし公的調査を見ると、退職者こそが情報流出の主要な入口の一つであることが分かります。本記事では、調査データをもとに退職に伴う情報流出の実態と原因、企業への影響、そして自社でできる対策を整理します。

営業秘密の漏えいルート、最多は「中途退職者」

2020年度調査では「中途退職者による漏えい」が36.3%で最多

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の「企業における営業秘密管理に関する実態調査2020」によると、営業秘密の漏えいを経験した企業において、漏えいルートとして最も多かったのは「中途退職者(役職員・正規社員)による漏えい」で、36.3%を占めました。

つまり、漏えいを経験した企業の3社に1社以上が、辞めていった社員経由で情報を失っていたことになります。サイバー攻撃のような外部要因だけでなく、「内部の人間が外に出る」という人の移動そのものが、情報流出の入口になっているのが実態です。

図: 営業秘密の漏えいルートに占める「中途退職者による漏えい」の割合の推移(出典: IPA「企業における営業秘密管理に関する実態調査」各年度版)

2024年度調査の内訳と、退職者ルートの位置づけ

最新の2024年度調査では、漏えいルートの内訳は大きく変わりました。最も多かったのは「外部からのサイバー攻撃等による漏えい」で36.6%、次いで「現職従業員等のルール不徹底による漏えい」が32.6%、「金銭目的等の具体的な動機をもった漏えい」が31.5%、「誤操作・誤認等による漏えい」が25.4%と続きます。

この中で「中途退職者による漏えい」は17.8%でした。2020年度の36.3%からは低下したものの、依然として主要なルートの一つです。年度によって順位や割合は変動しますが、「退職者が関わる流出」は一貫して無視できない規模で発生し続けています。

図: 2024年度調査における営業秘密の漏えいルート内訳(出典: IPA「企業における営業秘密管理に関する実態調査2024」)

「外部対策」だけでは防げない理由

2024年度の内訳を見ると、上位にはルール不徹底や誤操作といった、現職従業員に関わるルートも並んでいます。ファイアウォールやウイルス対策といった外部からの攻撃への備えだけでは、内部の人間が関わる流出は防げません。情報管理は「システムの問題」であると同時に、「人の問題」でもあるのです。

何が持ち出されるのか

営業・マーケティング担当は「顧客情報」

Deloitteの退職者リスクマネジメントに関する解説では、職種ごとの典型例が挙げられています。営業職やマーケティング担当に多いのは、取引先や顧客の担当者名、連絡先、契約条件といった顧客情報の持ち出しです。これらが転職先で使われれば、新規顧客の獲得にそのまま活用されてしまいます。自社にとっては、既存顧客への競合からのアプローチを招くリスクにもなります。

研究開発・エンジニアは「技術情報」

研究開発担当やエンジニアの場合は、製品の開発資料、マニュアル、設計図、特許情報などの技術情報が対象になります。同じ技術を用いた製品やサービスが競合から市場に投入されれば、自社の差別化が困難になり、競争優位性そのものが損なわれかねません。

頭の中のノウハウは「持ち出し」とは呼ばれない

さらに厄介なのは、書類やデータの形を取らないノウハウです。業務の進め方、顧客との関係性、トラブル対応の勘所といった暗黙知は、本人の経験として蓄積されるため、「持ち出し」として検知すること自体ができません。キーパーソンが一人で業務を抱え込む属人化が進んでいる企業ほど、退職時のノウハウ喪失は大きくなります。

なぜ退職者経由の流出は起きるのか

「うっかり型」: ルール不徹底と誤操作

2024年度調査で上位に入った「ルール不徹底」(32.6%)や「誤操作・誤認等」(25.4%)は、悪意のない流出です。情報の取り扱いルールが曖昧だったり、退職時の返却・削除の手順が徹底されていなかったりすると、本人の自覚がないまま情報が社外に残ってしまいます。

「確信犯型」: 動機を持った持ち出し

一方で、「金銭目的等の具体的な動機をもった漏えい」も31.5%にのぼります。転職先での評価を高めたい、独立後の事業に使いたいといった動機から、意図的に情報を持ち出すケースです。会社への不満が蓄積している社員ほど、こうした行為への心理的なハードルは下がりやすくなります。

引き金になるのは「不満の放置」

どちらの型にも共通するのは、流出は退職の「瞬間」にだけ起きるのではない、という点です。業務への不満や会社への不信感が長期間放置されるなかで、ルールへの意識は緩み、持ち出しへの抵抗感も薄れていきます。つまり情報流出のリスクは、退職が決まってからではなく、そのずっと前から高まり始めているのです。

流出が企業にもたらす影響

競争力の喪失

技術情報やノウハウが競合に渡れば、自社が時間とコストをかけて築いた差別化の源泉が失われます。顧客情報が使われれば、既存顧客の流出に直結します。いずれも、失ったものを取り戻すには長い時間と大きなコストがかかります。

ブランド毀損と信頼の低下

流出が公になれば、「情報管理が甘い会社」という評価が広がります。顧客や取引先からの信頼が低下すれば、新規の取引にも影響しかねません。情報そのものの損失に加えて、対外的な信用の損失が重なる点が、情報流出の怖さです。

法的対応と個人情報保護法上の負担

顧客の個人情報が含まれていれば、個人情報保護法に基づく報告や本人への通知といった対応が必要になる場合があります。また、不正競争防止法による差止めや損害賠償請求といった法的措置は可能ですが、訴訟には時間と費用がかかり、勝訴しても一度競合の手に渡った情報を事実上取り戻すことはできません。事後対応には限界がある、という前提で考える必要があります。

自社でできる情報流出対策

まず整えたい基本のチェックリスト

情報管理の仕組みと、人へのフォローの両面から対策を進めることが大切です。まずは次の項目を自社で確認してみてください。

仕組みとフォローはセットで

アクセス制限やルール整備は「うっかり型」には有効です。しかし「確信犯型」やノウハウの喪失は、仕組みだけでは防げません。不満を抱えた社員を生まないこと、兆候の段階でフォローすることと組み合わせて初めて、対策として機能します。

特に中小・中堅企業では、情シス専任がいない、規程が整っていないといった事情から、対策が後回しになりがちです。だからこそ、まずはチェックリストで自社の穴を把握し、できるところから一つずつ塞いでいく進め方が現実的です。あわせて、キーパーソンに業務が集中している部署ほど、引き継ぎ資料の整備と兆候のモニタリングを優先してください。

よくある誤解と注意点

誤解1「秘密保持契約を交わせば安心」

秘密保持契約や競業避止の取り交わしは、抑止力としては意味があります。しかし、それだけでは不満を抱えた社員の退職そのものは止められませんし、契約に違反した持ち出しを事前に防ぐこともできません。契約は「最後の防波堤」であって、予防策の中心ではありません。

誤解2「監視を強めれば防げる」

ログ監視や私物デバイスの全面禁止など、管理を強めること自体は有効な場面もあります。ただし、過度な監視は社員の不信感を招き、かえって離職や不満の蓄積を招くことがあります。情報管理の強化と、働く人の納得感のバランスを取ることが重要です。

注意点: 数字は調査年度で変動する

IPA調査における中途退職者経由の割合は、2020年度36.3%、2024年度17.8%と年度によって変動します。「退職者経由は減ったから大丈夫」と短絡的に捉えるのではなく、自社にとってのリスクがどこにあるかを、内訳とあわせて確認することが大切です。

SENTENO離職対策で「兆候」の段階に気づく

勤怠データ×アンケートをAIが分析

SENTENO離職対策は、勤怠データとアンケート(サーベイ)をAIが分析し、離職の兆候がある社員を自動でピックアップする離職対策サービスです。残業時間の急増、欠勤の増加、アンケートでの意欲低下といった変化は、退職の意思が固まる前にデータに表れます。SENTENO離職対策はその変化を捉え、フォローが必要な社員を自動でお知らせします。

「誰に・どう声をかけるか」まで提案

通知を受けた管理職が「何をすればよいか分からない」という事態を避けるため、AIが声かけの内容まで提案します。分析結果の読み解きやグラフの解釈は不要で、人事の専任担当者がいない企業でも運用を回せる設計です。導入は勤怠システムとの連携とアンケート配信が中心で、専用アプリのインストールも必要ありません。

料金

料金は従業員数に応じて個別にご案内しています。詳しくは資料請求にてご案内します。キーパーソンの退職とそれに伴うノウハウ流出を一人でも防げれば、十分に元が取れる水準と言えます。まずは無料の「離職コスト診断」で、自社の離職損失額を試算してみてください。

まとめ

営業秘密の漏えいルートにおいて、中途退職者は2020年度調査で最多の36.3%、2024年度調査でも17.8%を占める主要なルートです。持ち出されるのは顧客情報や技術情報だけでなく、頭の中のノウハウも含まれます。

そして重要なのは、流出の多くは「辞めてから」では防げないという点です。法的措置や契約には限界があり、流出した情報は取り戻せません。だからこそ対策の中心は、情報が持ち出される前の段階、つまり社員が不満を抱え、退職の意思を固める前に兆候へ気づいてフォローすることにあります。情報管理の仕組みづくりと人のフォローを両輪で進めることが、ノウハウと顧客を守る一番の近道です。

出典

IPA「企業における営業秘密管理に関する実態調査2020」 https://www.ipa.go.jp/security/reports/economics/ts-kanri/20210318.html

IPA「企業における営業秘密管理に関する実態調査2024」 https://www.ipa.go.jp/security/reports/economics/ts-kanri/j5u9nn0000004yjn-att/TradeSecret_report_2024_r2.pdf

Deloitte「退職者リスクマネジメント」 https://faportal.deloitte.jp/crisis/articles/1004

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