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退職の申し出は、多くの場合、本人の中で何ヶ月も前から進んできたプロセスの最終段階です。それでも、上司の受け止め方と初動によって、結論が変わることはあります。逆に、初動を誤れば、迷っていた本人の背中を押してしまうこともあります。
米Gallupの調査では、自主退職した人の52%が「上司や組織が何かしていれば辞めずに済んだ」と回答しています。ただし、申し出の段階まで来ると、翻意できるケースは限られます。本記事では、申し出を受けた直後の対応、引き留めの判断軸、カウンターオファーの考え方、そして引き継ぎへの切り替えのポイントを整理します。
申し出を受けたら、まず「話してくれてありがとう」と受け止め、その場で引き留めの結論を出そうとしないことが大切です。感情的な説得や、その場しのぎの条件提示は、後で本人の不信を招きます。「理由をきちんと聞きたいので、改めて時間を取らせてほしい」と伝え、正式な面談の場を設定するのが初動の基本です。

図: 退職の申し出を受けたときの対応の流れ
驚きや落胆は自然な感情ですが、「困る」「裏切られた」といった反応を前面に出すと、本人は「言い出しにくい雰囲気だった」と心に刻みます。後の面談で本当の理由を話してもらうためにも、初動では落ち着いて受け止める姿勢が重要です。
退職届の提出方法や退職日の決め方は、就業規則や本人の契約条件によって異なります。面談の場で曖昧な約束をせず、「手続きについては規則を確認して人事から正式に伝える」と線を引いておくことが、後のトラブルを防ぎます。待遇や条件の話と、手続きの話は分けて進めてください。
申し出の事実は速やかに人事と共有します。引き留めに動くにせよ、引き継ぎに進むにせよ、組織としての判断と手続きが必要だからです。上司が一人で抱え込み、対応が遅れること自体が、本人への誠意を欠く結果になりかねません。
退職理由として口に出されるのは、「家庭の事情」「新しいことに挑戦したい」といった当たり障りのない理由であることが少なくありません。しかし実際の決め手は、業務量、評価への不満、人間関係、将来への不安といった、職場で変えられる要因であることも多いものです。面談では、結論の報告を受ける場ではなく、理由を聞き切る場だと位置づけてください。
決断に至るまでの期間を聞くと、理由の深さが見えてきます。数週間で固まった決断なのか、半年以上悩んだ末なのか。前者であれば、直近の出来事への対応で翻意の余地が残ることもあります。後者は、すでに次の職場が決まっている場合も多く、引き留めの難易度は上がります。
申し出直後の面談では、本人も整理がついておらず、本当の理由が後から出てくることがあります。初回の面談で結論を急がず、「数日考えて、もう一度話そう」と複数回に分ける進め方が、理由の深掘りにも、引き留めの判断にも有効です。間を空けることで、会社側も具体的な対応策を用意できます。
「それは誤解だ」「考えすぎだ」と理由を否定すれば、本人の決意はむしろ固まります。たとえ事実誤認があっても、まずは受け止め、事実関係は改めて確認する姿勢を示してください。
業務量の偏り、担当業務のミスマッチ、評価の伝わり方など、退職理由が職場側の対応で変えられるものであれば、具体的な改善策を提示することで翻意につながる可能性があります。重要なのは、曖昧な慰留ではなく「何を・いつまでに・どう変えるか」を具体的に示すことです。

図: 引き留めに動く前に確認するチェックポイント
転職先が内定している、独立の準備が進んでいる、勤務地や家庭の事情で物理的に続けられない、いった場合は、引き留めが実を結ぶ可能性は低くなります。無理な引き留めは本人の心証を悪くし、引き継ぎの協力も得にくくなります。潔く送り出す判断も、組織の信頼を守る対応です。
結論を先延ばしにして本人の退職時期だけを引き延ばす対応は、本人にも組織にも得がありません。本人の転職先への入社時期に影響すれば恨みを買い、職場にも宙ぶらりんの期間が続きます。判断には期限を切ってください。
退職理由が給与だけにある場合はまれで、多くの場合は業務や将来への不満が複合しています。金銭条件の提示だけで翻意しても、根本の不満が残れば、数ヶ月後に再び退職の意思が固まることが少なくありません。カウンターオファーは「時間を買う」手段に過ぎない点を理解しておく必要があります。
申し出た人だけ条件が改善される前例は、周囲に「辞めると言えば条件が良くなる」という学習をさせます。公平感を損なう対応は、短期的には一人を留めても、中長期的には組織の信頼を蝕みます。条件の見直しが必要なら、個人の慰留ではなく制度として検討すべきです。
カウンターオファーを提示する場合でも、中心は退職理由そのものへの対応です。業務の見直し、役割の再設計、キャリアパスの提示と組み合わせて初めて、翻意が定着につながります。
翻意が得られた場合も、そこで終わりではありません。提示した改善策を確実に実行し、数週間から数ヶ月の間は通常より密に状態を確認します。一度退職を考えた社員への周囲の目も変わるため、本人が孤立しないよう、上司が意図的に関わりを保つことが再離職の防止につながります。
面談を重ねても本人の意思が固く、転職先も決まっている場合は、引き継ぎモードへの切り替えを宣言します。「残念だが意思は分かった。残りの期間、引き継ぎをきちんとやろう」と明確に伝えることで、本人も組織も前に進めます。切り替えの遅れは、引き継ぎ期間の不足に直結します。

図: 引き留めが難しい場合は、引き継ぎへ速やかに切り替えます(イメージ)
顧客情報、進行中の案件の状態、暗黙知に属する手順。この3つは優先的に文書化・共有します。退職に伴う情報や顧客の流出リスクについては、関連記事「退職者によるノウハウ・情報流出の実態」も参考にしてください。
退職が決まった後も、本人のモチベーションを保つ関わりが大切です。有給消化の計画、引き継ぎの優先順位、対外的な発表のタイミングを本人と一緒に決めることで、最後まで協力的な関係を保ちやすくなります。宙ぶらりんな期間を作らないことが、周囲への悪影響も抑えます。
退職の手続きや最終出社日の対応が冷たければ、その印象は本人の口コミや、残る社員の目に残ります。感謝を伝えて送り出すことは、採用ブランドを守る実務でもあります。
Job総研の調査(2026年・対象257人)では、同僚の退職によって転職意欲が「上がる」と答えた人が77.5%、会社に残ることへの不安を感じる人が66.1%にのぼります。一人の退職への対応は、その人本人だけでなく、残るメンバーへの対応でもあるのです。
退職の事実と今後の体制は、憶測が広がる前に適切な範囲で共有します。あわせて、欠員の負担が特定のメンバーに集中しないよう、業務の棚卸しと配分の見直しを行ってください。欠員を放置することが、次の離職の起点になります。
申し出の面談で聞いた理由は、個人の事情として処理して終わりにせず、傾向として記録します。同じ理由が繰り返し現れるなら、それは個人の問題ではなく組織の課題です。記録が蓄積されれば、対策の優先順位は自ずと見えてきます。
社員1人の離職には、紹介手数料(厚生労働省の実績平均で約103万円)をはじめ、合計約158万円のコストがかかると試算されています。(詳しくは関連記事「社員1人の離職コストは約158万円」)。引き留めや予防への投資判断は、この損失額と比較して考えるのが合理的です。
申し出後の面談でできることには限りがあります。確実なのは、申し出に至る前の段階で変化に気づき、声をかけることです。退職の意思が固まる前であれば、小さな負担調整や対話で翻意できる余地は大きく残っています。
SENTENO離職対策は、勤怠データとアンケート(サーベイ)をAIが分析し、離職の兆候がある社員を自動でピックアップするサービスです。残業の急変や意欲の低下といったサインを早い段階で捉え、「誰に・どう声をかけるか」までAIが提案します。申し出を受けてから慌てるのではなく、申し出が来ない職場づくりのための仕組みです。
退職の申し出への対応は、初動で受け止め、面談で理由を聞き切り、「変えられる理由かどうか」で引き留めと引き継ぎの判断を分けることが要点です。カウンターオファーは単独では効きにくく、理由への対応とセットで初めて意味を持ちます。そして最も確実な対策は、申し出の前の段階で兆候に気づくことです。日頃の対話とデータの見守りを組み合わせ、申し出が「突然」にならない職場づくりを目指してください。それが結果として、引き留めに頼らない組織への近道になります。自社の離職による損失額は、無料の「離職コスト診断」で試算できます。損失の大きさが見えれば、引き留めや予防にどこまで工数をかけるべきかの判断もぶれにくくなります。
Gallup「This Fixable Problem Costs U.S. Businesses $1 Trillion」(2019年) https://www.gallup.com/workplace/247391/fixable-problem-costs-businesses-trillion.aspx
Job総研(パーソルキャリア)「2026年 退職に関する意識調査」(対象257人) https://www.j-cast.com/kaisha/2026/04/18513475.html?p=all
厚生労働省「令和6年度 職業紹介事業報告書の集計結果(速報)」 https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001683019.pdf
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