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「社員が1人辞めると、いくら損するのか」。この金額を正確に把握している企業は多くありません。求人広告費や紹介手数料といった目に見える支出は把握していても、欠員期間の生産性低下や、教育にかかる現場の工数まで含めて計算している企業は少数派です。本記事では、公的統計を土台に離職コストの内訳を分解し、自社の年間損失を試算する方法と、コストを下げるための考え方を解説します。
離職コストとは、社員が1人退職してから、後任が採用され、前任者と同じ水準で働けるようになるまでにかかる費用と損失の総額です。退職の手続きから始まり、募集・選考、入社後の研修、独り立ちまでの生産性ギャップまで、期間にして約1年にわたって発生し続けます。単発の出費ではなく、長い期間にわたる損失の積み重ねだと理解することが重要です。
離職コストは、請求書が届く「直接コスト」と、金額として見えにくい「間接コスト」に分けられます。直接コストの代表は人材紹介会社への紹介手数料です。一方、間接コストには、欠員を埋めるための残業代、教育担当者の稼働、新人の生産性が上がるまでの不足分などがあります。間接コストは経理上の支出として現れないため、「離職はそれほど損ではない」という誤解を生みやすいのです。
間接コストは、複数の部署に分散して発生します。人事は紹介手数料を知っていても、現場の教育工数や生産性低下までは把握していません。しかも、間接コストは請求書や領収書の形で残らないため、振り返りの機会もないまま見過ごされがちです。だからこそ、まずは標準的な内訳モデルで自社の損失を概算し、経営の数字として捉えることが出発点になります。数字として見える化されて初めて、離職対策は「人事の課題」から「経営の投資判断」の対象になります。
標準的なモデルで計算すると、離職コストは1人あたり約158万円になります。内訳は次のとおりです。
項目 | 金額 | 内容 |
|---|---|---|
紹介手数料 | 約103万円 | 有料職業紹介で常用就職1件あたりの平均(厚生労働省・令和6年度実績) |
欠員の穴埋め・生産性低下 | 20万円 | 募集期間中の残業代・派遣活用・機会損失 |
立ち上がりの生産性不足 | 12万円 | 入社後、前任者水準に達するまでの生産性ギャップ |
入社手続き・初期研修 | 10万円 | 事務手続き、備品、集合研修の工数 |
OJT・指導者の稼働 | 8万円 | 教える側の時間コスト |
退職手続き・引き継ぎ | 5万円 | 事務処理と引き継ぎ工数 |
合計 | 約158万円 |

図: 離職コストの内訳(1人あたり約158万円)(出典: 厚生労働省「令和6年度 職業紹介事業報告書の集計結果(速報)」、その他項目は当社試算)
最大の項目は紹介手数料です。厚生労働省「令和6年度 職業紹介事業報告書の集計結果(速報)」によると、常用就職1件あたりの手数料は平均で約103万円にのぼります。これは試算ではなく、実際に支払われた手数料の実績平均です。自社採用や求人広告で補充する場合でも、広告費や選考にかかる工数が発生するため、ゼロにはなりません。
残りの約55万円は、欠員の穴埋めや生産性低下、研修やOJTの稼働といった間接コストです。1件ずつは小さく見えますが、合計すると紹介手数料の半分以上に相当します。しかもこれらは、離職が増えるほど現場の負担として累積します。金額の大小だけでなく、「現場の時間」を奪う点でも無視できない損失です。
米Gallupは、社員1人の交代コストを年収の0.5〜2倍と見積もっています(2019年)。この数字には、採用活動にかかる費用だけでなく、欠員期間の損失や教育、生産性の回復までが含まれる考え方です。離職コストを「手数料だけ」で捉えるのとは対照的に、損失の全体像を捉えようとする視点といえます。
年収400万円の社員であれば、Gallupの目安では200万〜800万円という計算になります。これと比べると、当社の158万円という試算は保守的な水準です。つまり、158万円は大げさな数字ではなく、むしろ控えめに見積もった下限に近い金額だと考えられます。自社の試算に使う数字として、安心して使える水準です。
同じGallupの調査では、自主退職した人の52%が「上司や組織が何かしていれば辞めずに済んだ」と回答しています。これは、離職コストの約半分は、理論上は予防可能だったことを意味します。離職コストの話は、削減できる損失の話でもあるのです。
コストに加えて、「時間」の損失もあります。退職の申し出から後任が前任者水準で稼働するまでの流れは、おおむね次の通りです。
退職申し出〜退職: 約1ヶ月(引き継ぎ期間)
募集開始〜採用決定: 約1〜2ヶ月
内定〜入社: 約1〜2ヶ月
入社〜独り立ち: 一般職で約6ヶ月、専門職では6〜12ヶ月

図: 退職の申し出から後任が独り立ちするまでの期間の流れ(出典: 当社作成)
合計すると約9ヶ月〜1年超。この間、欠員または戦力不足の状態が続きます。採用が決まれば終わりではなく、戦力が元に戻るまでには長い時間がかかるのです。繁忙期と重なれば、その影響はさらに大きくなります。
戦力不足の期間が長いほど、残ったメンバーへの負担は増え、サービスや品質の水準にも影響します。金額換算しにくい部分ですが、時間の損失は現場の疲弊という形で蓄積し、次の離職の引き金にもなりかねません。コストと時間は、切り離せないセットで考える必要があります。
年間の離職損失額は、次の式で概算できます。
従業員数 × 離職率 × 158万円
厚生労働省「令和6年 雇用動向調査」によると、全体の離職率は14.2%です。ここでは離職率15%として、規模別の年間損失を試算します。
従業員100名: 年間約2,370万円
従業員200名: 年間約4,740万円
従業員300名: 年間約7,110万円
従業員500名: 年間約1億1,850万円
従業員1,000名: 年間約2億3,700万円

図: 従業員数別の年間離職損失額(離職率15%、1人あたり158万円で試算)(出典: 当社試算)
自社の従業員数と直近の離職者数が分かれば、同じ式で自社の損失額が出せます。例えば従業員300名・離職率15%の企業では、離職者45人 × 158万円で約7,110万円が毎年の損失です。この金額が見えると、離職対策にいくらまで投資できるかという判断も、感覚ではなく数字で議論できるようになります。試算の際は、全体の平均だけでなく、部署ごとの離職率の偏りもあわせて確認することもおすすめします。損失が特定の部署に集中しているなら、対策の優先順位も自ずと明確になります。
コスト削減というと、紹介手数料の交渉や採用チャネルの見直しを思い浮かべがちです。しかし、それで下げられるのは158万円の一部に過ぎません。欠員期間や教育にかかる損失は、離職が起きるたびに発生し続けます。発生回数そのものを減らす、つまり離職を予防することが、最も大きな削減策です。
自社の離職者数と離職率を年単位で把握している
1人あたりの離職コストを自社の数字で試算したことがある
部署ごとの離職の偏りを確認している
退職者の退職理由を記録し、傾向を見ている
残業の急増など、退職の兆候を確認する仕組みがある
Gallupの調査が示すとおり、離職の約半分は防げた可能性があります。残業の急増、欠勤の増加、アンケートでの意欲低下といった兆候は、退職の意思が固まる前に表れます。その段階で上司が声をかけ、負担の調整や面談を行うことが、離職コストの発生を未然に防ぎます。
最も多い誤解です。紹介手数料は全体の約3分の2に過ぎず、残りは欠員や教育、生産性低下といった間接コストです。手数料だけを見ていると、損失を過小評価します。
採用が早く決まっても、入社から独り立ちまでには時間がかかります。戦力が回復するまでの約9ヶ月〜1年超という期間の損失は、採用スピードだけでは縮められません。
158万円の内訳の中心は、厚生労働省が公表した紹介手数料の実績平均(約103万円)です。Gallupの国際的な目安と比べても保守的な水準であり、根拠のある数字として扱えます。試算である以上、自社の実態に合わせて項目を調整するのが正しい使い方です。
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従業員300名の企業の場合、離職コストが1人あたり158万円ですから、年に2人の離職を防げば316万円分の損失を回避できる計算になります。年間45人の離職者のうち2人、という水準は、決して非現実的な目標ではありません。離職者全体をゼロにする必要はなく、「防げたはずの離職」を少し減らすだけで大きな損失回避につながります。このように小さな防止でも大きな効果が見込めることが、離職対策に取り組むうえでの現実的な出発点になります。
自社の正確な損失額は、無料の「離職コスト診断」で試算できます。数字が見えれば、離職対策の優先順位づけも変わってくるはずです。
社員1人の離職コストは約158万円。その中心は厚生労働省の実績値である紹介手数料約103万円で、国際的な目安と比べても保守的な試算です。規模が大きくなるほど年間の損失は膨らみ、従業員300名で約7,110万円に達します。一方で、離職の約半分は防げた可能性があるという調査もあります。まずは自社の損失額を数字で把握し、兆候の段階でフォローする仕組みを持つことが、離職コスト削減の第一歩です。
厚生労働省「令和6年度 職業紹介事業報告書の集計結果(速報)」https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001683019.pdf
Gallup「This Fixable Problem Costs U.S. Businesses $1 Trillion」(2019年)https://www.gallup.com/workplace/247391/fixable-problem-costs-businesses-trillion.aspx
厚生労働省「令和6年 雇用動向調査」https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/25-2/index.html
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